むくみ(浮腫)とは
むくみ、医学用語では「浮腫(ふしゅ)」と称され、毛細血管から漏れ出た水分が静脈系やリンパ系によって十分に回収されずに、体の皮下組織に余分な水分として蓄積している状態を指します。塩分を多く摂取したり、長時間同じ体勢を保ったりすることで生じることが多いですが、時には何らかの病気が原因で起こることもあります。特に、心不全のような深刻な健康問題が原因でむくみが生じる場合もあるため、むくみが持続する際は速やかに医療機関で相談することが重要です。
むくみ(浮腫)の症状
もし以下のような症状が継続している場合は、医師の診察を受けることをお勧めします。
- むくみが数日間持続し、
皮膚にしわが見られない - 足の血管が目立って浮き出ている
- 足に痛みがある
- 足が頻繁につる
- 体重が急激に増加している
- 顔やまぶたにむくみがある
- 足首やすねを押すとくぼみができ、
すぐには元に戻らない - 尿の量が通常より少ない
- 坂道や階段を上る際に息切れがする
- 疲れを感じやすい など
むくみ(浮腫)の原因
むくみは、心臓や腎臓の病気が原因で起こることがあります。
また、普段の食事の内容や生活習慣が影響して発生することもあります。
心臓の障害
心臓のポンプ機能が衰えると、心不全が起こり、血液が全身に十分に送られなくなります。また、心臓への血液の戻りも悪くなり、結果として組織に血液が滞留し、むくみが発生することがあります。これは多くの心臓病(例えば心筋梗塞や弁膜症)によって引き起こされる状態です。
肝臓の障害
肝硬変などのような障害を発症すると、アルブミンという重要なタンパク質の生成が減少します。アルブミンは血管内の水分を保持するために必要で、その量が不足すると、血管から水分が漏れ出し、むくみが生じる可能性があります。
腎臓の障害
腎臓は余分な水分や塩分を尿として体外に排出する役割を果たしています。腎不全に陥ると、この排出機能が低下し、体内に水分が溜まり、むくみが起こることがあります。
甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症が引き起こすむくみは、通常のむくみとは異なるメカニズムを持ちます。この状態では、体の代謝速度が落ち込み、結果として「粘性を持つむくみ」が組織間に形成されます。
甲状腺ホルモンの不足により、エネルギーの消費が減少し、タンパク質や脂質の代謝が遅れます。特に、「ムコ多糖類(グリコサミノグリカン)」と呼ばれる糖タンパク質の代謝が遅れると、これが体内に蓄積されます。ムコ多糖類は水分を保持する性質があり、体内に溜まると水分を吸収して膨らみ、むくみを引き起こします。このタイプのむくみは顔や四肢に特に現れやすく、押すとすぐには元の形に戻らないことが特徴です。
リンパのむくみ
リンパ液の流れが阻害されると、四肢にむくみが発生することがあります。この現象はリンパ管の問題によるもので、特にがんの手術を受けた後にみられることが多いです。手術直後にむくみが出ることもあれば、手術から10年以上が経過した後に突然むくみが現れることもあります。
下肢静脈瘤
ふくらはぎの筋肉は、血液を心臓に戻すための重要なポンプ機能を果たしています。足に到達した血液は、ふくらはぎの筋肉の動きにより、重力に逆らって心臓へと押し上げられます。
足の静脈には、血液が逆流しないようにする「静脈弁」がありますが、この弁が損傷すると機能不全を起こし、血液が足に滞留します。これが下肢静脈瘤を形成し、静脈が瘤のように膨れ上がる状態になります。また、クモの巣のように細かく広がるタイプの静脈瘤も存在します。
深部静脈血栓症
(エコノミークラス症候群)
長時間同じ姿勢を保つことは、足の静脈内に血栓ができるリスクを増加させます。血栓ができると、血液の心臓への戻りが悪くなり、結果として足にむくみが生じます。さらに、この血栓が肺の血管を塞ぐ肺塞栓症を引き起こすことがあり、命を脅かす事態になる危険性もあります。
薬によるむくみ
薬の副作用によってむくみが発生することがあり、特に高血圧の治療薬である「アムロジピン」に関連した浮腫はしばしばみられます。アムロジピンは、毛細血管への血液の流れを調整する筋肉(前毛細血管括約筋)を弛緩させます。その結果、毛細血管内の圧力が高まり、水分が毛細血管の外に漏れやすくなります。
自律神経障害によるむくみ
交感神経(自律神経の一部)は、毛細血管への血流を調整する筋肉(前毛細血管括約筋)を収縮させることで、血液が毛細血管に流れ込む量を抑える役割を持っています。しかし、交感神経の機能が低下する病気(例えば、糖尿病性神経障害やパーキンソン病)、あるいは高齢者では、この調整がうまくいかなくなり、毛細血管内に余分な血液が流れ込むことになります。その結果、水分が毛細血管の外に漏れやすくなり、むくみが起こります。このような原因によるむくみは、日常の診療でよく見られるパターンです。
生活習慣が関わるむくみ
長時間同じ姿勢で過ごすことへの影響
ふくらはぎは、「第二の心臓」とも呼ばれ、足の血液を心臓に戻すポンプの役割を果たしています。立ち仕事やデスクワーク、長距離の移動などで長時間同じ姿勢を続けると、ふくらはぎの動きが減り、血液が足に滞留し、むくみや下肢静脈瘤のリスクが高まります。
運動不足と激しいダイエット
ふくらはぎの筋力が落ちると、血液循環が悪化し、むくみが発生する可能性があります。
塩分の過剰摂取
塩分を多く摂取すると、体は血液中の塩分濃度を調整するために水分を保持しようとします。塩分(ナトリウム)には水分を引き寄せる性質があるため、余分な水分が体内に留まりやすくなり、結果としてむくみが生じます。
アルコールの過剰摂取
アルコールは利尿作用があり、体を脱水状態に向かわせます。この脱水により血液濃度が上昇すると、体は血管内の水分量を維持しようとするため、水分を組織から血管内に引き込む反応が起こります。しかし、アルコールの作用で血管が拡張し、水分が血管外に漏れやすくなるため、結果としてむくみが生じることがあります。
ビタミンB1欠乏
ビタミンB1は、エネルギー代謝、神経機能の維持、心血管系の維持に重要な役割を果たしています。体内でビタミンB1が不足すると、高拍出性心不全が起こり、静脈のうっ滞によるむくみが生じることがあります。アルコール依存症、偏食、無理なダイエット、消化管の吸収障害、妊娠や授乳などが、ビタミンB1欠乏の原因になることがあります。
むくみ(浮腫)の検査
血液検査
腎機能や肝機能の評価、アルブミン値、甲状腺ホルモンの測定が可能です。
「NT-proBNP」という、心不全の指標となるマーカーを調べます。
また、「D-ダイマー」という血栓形成のマーカーがあり、静脈血栓症がないかチェックできます。
尿検査
腎機能障害が進行すると尿中に蛋白が出現するため、その有無をチェックします。
胸部X線検査
心臓の大きさや心拡大の有無を確認します。
肺にうっ血がないか、胸に水が溜まっていないかもチェックできます。
心臓超音波検査
心臓の大きさ、動き、形状を詳しく調べ、心不全の原因を探ります。
血管超音波検査では、血流の状態や血栓、血管の肥厚の有無を確認できます。
むくみ(浮腫)の治療
むくみが特定の疾患によって引き起こされている場合、まずその病気の治療が優先されます。例えば、心不全や腎不全によるむくみでは、それぞれの病気に応じた治療が行われます。一方、体内に溜まった余計な水分がむくみの原因であるときは、利尿剤を用いて水分を排出する治療が一般的です。ただし、利尿剤は過剰使用による脱水や電解質異常が生じるリスクがあるため、適切に使用する必要があります。また、薬物治療だけではなく、日常生活の中での習慣の見直しもむくみの改善には不可欠です。例えば、塩分摂取の制限や適度な運動、足をあげて休む姿勢をとることなどが有効です。
マッサージとストレッチ
ふくらはぎの筋肉に優しくマッサージを施すことで、心臓への血液の戻りを促進し、むくみを軽減する効果があります。このマッサージは血液循環を改善するだけでなく、リンパの流れを促進するため、下肢のむくみや疲労感の解消にも役立ちます。
また、ストレッチを行うことで、ふくらはぎの筋肉を柔らかくし、血行を良くすることができます。特に、腓腹筋やヒラメ筋といったふくらはぎの主要な筋肉に焦点を当てたストレッチは、むくみの予防や改善に効果的です。
ただし、マッサージやストレッチを行う際には、力をいれずぎず、痛みや不快感が出た場合はすぐに中止するようにしてください。また、むくみが重症化している場合や痛みを伴う場合には、医師に相談することをおすすめします。
食事
塩分が多く含まれる食品(ハム、ソーセージ、干物、漬物、インスタント食品、スナック菓子など)の摂取は控えめにしましょう。代わりに、新鮮な野菜や果物を積極的に取り入れたり、低塩分の調味料や香辛料(例えば、レモンやハーブ、スパイスなど)を活用して風味を工夫することで、減塩を無理なく実践できます。また、調理の際に出汁を活用すると、塩分を減らしながら旨みを引き出すことができます。バランスの良い食事を取り入れることが大切です。
運動
長時間のデスクワークで同じ姿勢が続くと、ふくらはぎの筋肉の動きが制限され、血流が滞りやすくなります。定期的に休憩を取り、歩く機会を作ること、ふくらはぎのストレッチを行うことが血流改善に効果的です。座っている間にかかとの上げ下げ運動(つま先を床につけたまま、かかとを上下に動かす)をすることも、ふくらはぎの血流を促進します。
弾性ストッキングの使用
弾性ストッキングは足に適度な圧力をかけ、むくみを軽減します。特に下肢静脈瘤がある方や、静脈血栓を予防したい方に有効です。また、長時間の飛行機旅行やデスクワークなどで足がむくみやすい方にも役立ちます。
ただし、弾性ストッキングは正しい着用方法を守ることが重要です。誤った使用は血行不良を招く可能性があるため、医師の指導のもとで使用することをお勧めします。