国内での骨粗鬆症患者の割合
日本は世界でも特に高齢化が進んでいる国の一つであり、2024年のデータによれば、65歳以上の人口は総人口の29.1%を占めています。骨粗鬆症に関しては、40歳以上の推計患者数は約1,590万人(男性410万人、女性1,180万人)とされていますが、実際に治療を受けている患者数は約135万9,000人(男性8万人、女性127万8000人)にとどまっています。
骨粗鬆症は自覚症状が乏しく、骨折をきっかけにして初めて診断されることがほとんどです。
骨粗鬆症とは
骨粗鬆症は、骨の密度が低下し、骨の質が損なわれることで骨折しやすくなる病気です。骨の健康を保つためには、骨密度と骨質の両方が重要です。この病気の治療では、これらを改善し、骨折を防ぐことが目標となります。
以下の条件に当てはまる方は、骨粗鬆症のリスクが高いとされています。該当する場合は、ぜひ当院にご相談ください。
- 過去に何度も骨折の経験がある
- ご両親が大腿骨の近位部で骨折したことがある
- 定期的に飲酒や喫煙をしている方
(例:毎日ビールを3杯以上飲む) - ステロイド薬を長期間服用している方、
または3ヶ月以上服用した経験がある方 - 45歳未満で早期閉経した方、関節リウマチ、
糖尿病、甲状腺機能亢進症など、
骨粗鬆症を引き起こしやすい病歴がある方
骨粗鬆症と骨折の関係
閉経後の女性の中には、身長が縮む、背中が曲がる、原因不明の腰痛に悩む方が少なくありません。これらの症状は年齢とともに現れることが多いですが、必ずしも加齢だけが原因ではなく、骨粗鬆症が関与している場合があります。
骨粗鬆症は、無自覚のうちに骨折を引き起こす病気です。特に、25歳時の身長から4cm以上縮んでいる方は、骨折のリスクが他の人の2倍以上とされています。さらに、転倒や骨折が原因で介護が必要になるケースは、全体の80%以上を占めると言われています。
50代~60代では、骨粗鬆症が原因で手首の骨折(橈骨遠位端骨折)が起こりやすいとされています。加齢がさらに進むと、胸椎や腰椎、上腕の付け根部分の骨折リスクが増加し、最終的には大腿骨近位部の骨折が起こりやすくなります。
大腿骨の骨折は通常手術が必要となり、治癒後も後遺症による歩行障害や要介護状態になるリスクを伴います。
診断方法
診断は、骨密度の測定を中心に、問診、診察、血液検査などの結果を総合して行います。
骨密度検査
以下に代表的な測定法やその特徴をお示します。当院では、簡便な検査としてDIP法を採用しています。検査の結果、より詳しい精密検査が必要と判断された場合には、DXA法を実施できる病院やクリニックをご紹介いたしますので、ご安心ください。
測定法 | 精度 | 測定部位 | 用途 |
---|---|---|---|
DIP法 | 中程度 | 手指や手首 | スクリーニング、健康診断 |
DXA法 | 高精度 | 腰椎、大腿骨近位部 | 骨粗鬆症の診断基準、精密検査 |
超音波 骨密度測定法 |
低〜中程度 | 踵骨 | 簡易スクリーニング |
pQCT法 | 非常に高精度 | 前腕、脛骨 | 骨質・骨構造の詳細な評価 (主に研究向け) |
血液検査
骨代謝マーカーを用いた検査は、骨粗鬆症治療において非常に重要です。骨代謝マーカーの数値から、骨の新陳代謝が適切に行われているかをチェックします。骨代謝マーカーの数値が高い場合は、骨密度が急激に低下している可能性があり、骨密度が正常であっても骨折のリスクがあるとされます。これらの検査結果を総合的に評価し、患者さまに最適な治療薬を処方します。さらに、血液検査の結果から、骨髄腫など他の潜在的な疾患との鑑別を行います。
骨粗鬆症の治療
骨粗鬆症の治療には、バランスの取れた食事、定期的な運動、そして薬物療法が不可欠です。
食事療法
塩分や脂肪分は控えめにし、栄養バランスを考慮した食事を心がけましょう。具体的には、以下のポイントを意識しましょう。
1.カルシウム
- 1日に700〜800mgを目安に摂取しましょう。
- 牛乳、乳製品、小魚、緑黄色野菜、豆腐などの食品がカルシウム源として効果的です。
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カルシウム不足は、骨だけでなく血管や他の組織へのカルシウム沈着を引き起こし、糖尿病、動脈硬化、高血圧などのリスクを高める可能性があります。
2.ビタミンD
- 骨にカルシウムを取り込むのを助けます。
- 抗炎症作用や心血管疾患の予防効果が報告されています。
- 日光浴(適度に紫外線を浴びる)や、魚類(サケ、サバなど)を積極的に摂取しましょう。
3.ビタミンK
- 血管の石灰化を防ぎ、骨形成を助けるビタミンで、納豆や緑黄色野菜(ほうれん草、ブロッコリーなど)に多く含まれています。
4.アルコールとカフェインを控えめに
- これらは、カルシウムの排出を促進するため、過剰摂取は控えましょう。
5.骨粗鬆症と動脈硬化の関係
- 骨粗鬆症の患者さまは、動脈硬化による心臓病や冠状動脈疾患を併発するケースが多いとされています。そのため、骨と血管の両方の健康を守るために、カルシウムだけでなくビタミンDやビタミンKの摂取が重要です。
運動療法
運動療法は骨粗鬆症治療において有効です。適切な運動は骨密度を維持・向上させるだけでなく、筋力を強化し、バランス感覚を向上させることで転倒のリスクを減らす効果があります。転倒予防は骨折のリスクを低減するために特に重要です。
過度な運動は必要ありませんが、定期的なウォーキングなどもお勧めできます。また、背筋トレーニングは脊椎の骨折を防ぐのに有効です。
薬物療法
患者様の検査結果と病状に基づいて、最適な薬を選択します。骨粗鬆症治療には、骨形成を促進する薬や骨吸収を抑制する薬が用いられます。また、骨密度を高めるための補助薬もあります。薬の効果や副作用は個人差があるため、定期的な検査を通じて治療を継続することが大切です。
主な薬剤
骨吸収抑制薬 | 抗RANKLモノクローナル抗体製剤、SERM(サーム)製剤 |
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骨形成促進薬 | ビスホスホネート製剤、副甲状腺ホルモン(PTH)製剤 |
骨吸収収抑制+骨形成促進 | スクレロスチン製剤 |
その他薬 | ビタミンD製剤、ビタミンK製剤 |
Q&A
骨粗鬆症の検査は何歳から
始めるべきですか?
女性の場合、閉経を迎えると骨密度が低下しやすくなるため、50歳から検査を受けることをお勧めします。
骨粗鬆症の治療を痛みが
ないからといって中断しても
問題ないでしょうか?
骨粗鬆症は通常、痛みなどの自覚症状が少ない病気です。しかし、骨粗鬆症による骨折が発生した場合は別です。骨折による痛みは治療を受けることで徐々に軽減されますが、これは骨粗鬆症が完治したわけではありません。
治療を中断すると、再び骨折するリスクが高まるため、治療は継続的に行うことが重要です。
骨粗鬆症になりやすい原因は
何ですか?
骨粗鬆症のリスクは、家族歴がある場合に高くなります。遺伝的要素のほか、食習慣や運動の有無などの生活スタイルも影響します。早期閉経を迎えた女性や体型が細い方もリスクが高いとされています。女性ホルモンは骨を保護する役割を持っていますが、閉経を迎えるとその保護機能が低下し、骨の老化が進むためです。また、若い時からの過度なダイエットも、骨粗鬆症の発症リスクを増加させると考えられています。